DRAMの供給逼迫と価格高騰が既に問題視されていますが、NANDフラッシュメモリ市場でも同様の事態が発生しています。大手SSDコントローラーサプライヤーであるPhison社の第3四半期決算報告によると、NAND TLCメモリの平均販売価格が数ヶ月で50〜75%も急騰しており、この流れは当面続くと見られています。
AI需要により前例のないNAND需要に直面
Phison社 CEOであるKhein-Seng Pua氏によると、現在のメモリ市況は「これまで見たことのない」状況だと表現しています。これはDRAM市場だけでなく、NANDフラッシュメモリにおいてもAI関連需要が価格を押し上げる主要因となっています。
この急激な需要増加の背景にあるのがAIブームです。これにより、データセンターは、AIモデルの保存、大規模言語モデルの高速起動のための事前ロード、モデル更新時のストレージへの反映など、データセンターで用いられていたHDDから、NAND SSDが大規模に採用されています。この状況に関して、Phison社は市場のNAND供給が逼迫状態にあると報告しており、NAND TLC価格の上昇傾向は今後も継続すると予測しています。
NAND業界がやっと需要低迷から脱却も投資拡大には慎重姿勢
NAND業界は長期にわたり需要低迷に苦しんでおり、Pua氏によればNAND製造工場は数ヶ月にわたり稼働率が低い状態が続いていました。そのため、各サプライヤーは生産能力拡大に慎重な姿勢を取り続けてきた経緯があります。
特に、新型コロナによるパンデミック以降、NAND業界はコンシューマー向け製品の需要に大きく左右される傾向にあり、ここ5年間の利益は投資に見合った収益を十分確保できていませんでした。そのため、この需要急騰に向けてNAND製造に向けて各社がすぐに投資を拡大させるかは未知数です。ただ、今までの投資分の回収が見込め、さらに今後も底堅い需要と利益を得られることが確実視されれば再びNANDの生産拡大に各社が前向きな姿勢を示すことが期待でき、そうなれば徐々に需給バランスが改善が見込まれるようです。
SSDを買うなら早めか、バブル崩壊を願うか
DRAM価格が急騰した際、消費者は当初緩やかな値上がりを予想していましたが、実際にはメモリモジュールの平均販売価格が倍増するケースも見られました。そのため、今後NAND市場でも同様の展開が予想されます。
特に、影響を大きく受けるのがエンタープライズ用途で非常に高い需要が記録されている大容量モデルで、これらのモデルでは価格上昇が顕著になる可能性が高いとされています。また、エントリー向けとして人気が高いQLC NANDもデータセンター向けで需要が高まっているとも言われるため、エントリーからハイエンド含め幅広いSSDが値上げに晒されると予想されます。
そのため、もし近いうちにPC新調やSSDの容量追加などを考えている場合はブラックフライデーや年末年始のセールを狙い、値下がりを期待する人はAIバブルが弾けることを祈り、そのタイミングを待つしかないと言えます。
NANDフラッシュは長年需要低迷に晒され、工場の稼働率低迷に悩まされていた期間も長かったため、各社あまり積極的に工場への投資が進められていない状況になっています。また、NANDとDRAMを作る各社メーカーはどちらかというとNANDより高い収益が期待できるDRAM、特にHBMに力を入れており、NAND工場への新規投資が行われるのはまだまだ先と言えそうです。そのため、今後もAIブームが続き、データセンターが次々と建設される状況となればDRAMのみならず、NANDを使うSSDも大幅な価格高騰が想定され、そうなれば自作PC用パーツのみならず、スマートフォンやノートPC、コンソールゲーム機など影響は多岐に渡ることが懸念されます。



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