Intelは次世代ノートPC向けCPUの「Panther Lake」を正式発表し、アーキテクチャーや製造プロセス、Lunar LakeやArrow Lakeからの変更点など、詳細な技術情報を明らかにしました。
Intel Lunar LakeやArrow Lakeの課題を解消する次世代CPU「Panther Lake」
Intelの主力市場でもあるノートPC向けCPUは、AMDやQualcommなどとの厳しい競争にさらされており、性能と電力効率の向上が必要な状況となっています。このため2024年には、省電力性能を重視してArm系のQualcommに対抗する「Lunar Lake」、性能面でAMDに対抗する「Arrow Lake」シリーズをそれぞれ投入しました。
ただ、これらのCPUにはそれぞれ課題も存在しています。Lunar LakeはCPUとメモリを一体化した設計であるため、ノートPCメーカーによるカスタマイズが不可能となりました。一方、Arrow LakeはSO-DIMMなどに対応するものの、消費電力はLunar Lakeに及ばない状態でした。
また、両CPUは全面的にTSMCプロセスを採用したため高コストな製品となってしまい、Intel自身も過去の決算でTSMCを使うCPUの採算性には課題があることを明らかにしていました。
そのため、Panther Lakeはこれらの課題に立ち向かうべく開発された新世代製品となっています。
Intel 18Aプロセスを初採用
Panther LakeのCPUタイルは、Intelの最先端18A製造プロセスで製造されます。18Aは業界初となる2つの重要技術を採用しています。


Panther LakeのCPUタイルは、Intelの最先端18A製造プロセスで製造されます。18Aは業界初となる2つの重要技術を採用しています。
1つ目は「RibbonFET」と呼ばれるゲート・オール・アラウンドトランジスタです。ゲート構造がチャネルを完全に包み込む構造になっており、従来のFinFETと比較してリーク電流を大幅に抑制できます。リーク電流が少ないということは、チップ動作中の無駄なエネルギー消費が減ることを意味します。
2つ目は「PowerVia」と呼ばれる裏面電力供給ネットワークです。従来は信号線と電力線の両方をトランジスタの上部に配置していましたが、微細化が進むにつれ、これらの配線が貴重なスペースを奪い合う状況になっていました。PowerViaではウェハーを反転させて裏側から電力配線を構築することで、密度を10%向上させ、パッケージからトランジスタへの電力損失を30%削減しています。
総合的に18Aは2023年に発売されたMeteor Lake採用のIntel 3と比較して、同じ電力で15%高い動作クロックを実現するほか、トランジスタ密度も1.3倍向上しています。
進化したCPUアーキテクチャー
Panther LakeのP-coreである「Cougar Cove」とE-coreである「Darkmont」は、前世代のLion CoveとSkymontからの改良版として位置づけられていますが、その詳細な改良内容などは今回は明らかにされず、概要のみ発表されています。

Panther LakeのP-coreである「Cougar Cove」とE-coreである「Darkmont」は、前世代のLion CoveとSkymontからの改良版として位置づけられていますが、その詳細な改良内容などは今回は明らかにされず、概要のみ発表されています。

Darkmont E-coreも同様の進化を遂げており、プリフェッチャーの動的調整機能を備えるほか、分岐予測精度の向上やループストリーム検出による省電力化など、さまざまな改良が加えられています。
なお、DarkmontはLPE-Coreにも採用されており、今回のPanther LakeからLPE-Coreはソフト側から認識されるようになり、通常のアプリケーションなどで使用できるようになります。
チップセットは3つ構成。幅広い製品をカバー

Intelは現時点で2つの異なるCPUダイを用意し、これらを2つの統合GPUと組み合わせることで、異なる価格帯と性能を持つ3つのPanther Lake SoCを構築しています。
エントリーモデル

基本となるエントリーモデルはP-coreを4コア、E-coreを4コアの合計8コアを搭載し、現行のLunar Lakeと同じ構成になっています。GPUは4つのXe3コアを持つ小型版で、メモリは最大6800 MT/sのDDR5、または最大6400 MT/sの直付けLPDDR5Xに対応しています。
PCIe接続はGen 5が4レーン、Gen 4が8レーンです。軽量で長時間駆動を重視するノートPCに適した構成です。
ミドルレンジモデル

ミドルレンジモデルは4コアのP-Coreに加えて8コアのE-coreを配置し、さらに低電力なLPE-coreを4コア搭載した4P+8E+4LPE構成です。P-coreとE-core間で共有されるL3キャッシュは最大18MBに設定されています。GPUはエントリーモデルと同じ4 Xe3 Coreですが、メモリは最大7200 MT/sのDDR5、または最大8533 MT/sの直付けLPDDR5Xに対応しています。
PCIe接続も拡張されており、Gen 5が12レーン、Gen 4が8レーンと余裕があるため、外付けGPUを搭載した薄型軽量ノートPCなどに適した構成になっています。
ハイエンドモデル

最上位モデルはCPUがミドルレンジと同じ4P+8E+4LPEの構成を維持しつつ、内蔵GPUには12基のXe3コアを持つタイルを搭載することで、GPU性能を大きく引き上げています。なお、この製品は内蔵GPU性能を最大限発揮するため、メモリはLPDDR5Xのみに対応し、全Panther Lake製品の中で最速となる最大9600 MT/sの転送速度を実現しています。これによりゲーミングで重要となるメモリ帯域幅を確保しています。
PCIe接続はGen 5が4レーン、Gen 4が8レーンとミドルレンジより控えめで、これは外付けGPUを想定せず、内蔵GPUで完結させる設計思想を示しています。
なお、この製品はハイエンドなゲーミングノートPCやミニPCなどをターゲットとするほか、ハンドヘルド型デバイスでも搭載されることが予想されます。
噂されていたCore Ultra Xについては明らかにされず

Panther Lakeに関しては、特にグラフィクス性能を重視したハイエンドモデルに「Core Ultra X」という新名称またはモデル名が与えられることがリークで明らかにされていましたが、今回の発表では特にCore Ultra Xなど新しい製品ラインアップに関しては明言されませんでした。
そのため、現時点でこのCore Ultra Xが本当に登場するかは不明ですが、各モデルの仕様などは2026年に発表されると見られているため、Core Ultra Xブランドが登場するにしても、年内に正式発表される可能性は低いと考えられます。
電力効率は大幅向上。ただしベンチマークなどの公開は2026年以降


今回の発表では性能に関する情報は概要レベルでしか明らかにされていませんでしたが、P-Core側のCougar Coveはシングルコアにおいて、Lunar LakeやArrow Lakeと同等の電力で10%高い性能を発揮できるとされています。また、負荷の軽いワークロードでは同等の性能を維持しながら40%の省電力化が可能としています。
マルチスレッド性能では、Panther LakeはLunar Lakeと同等の電力で50%高い性能を実現できるほか、Arrow Lake-Hと同等の性能を30%低い電力で達成できるとIntelは主張しています。
ただ、この性能はSPECrate 2017という特定のベンチマークでの結果であり、レンダリングや動画編集、ゲーミングなど、より現実世界に即したワークロードで同様の結果が得られるかは2026年頃まで待つ必要がありそうです。
Panther Lake各モデルの仕様含めた詳細発表はCES 2026を予定?
今回、Intelが行ったPanther Lakeに関する発表は主に技術概要に留まっており、具体的にどのようなSKUが登場するかなど、踏み込んだ発表は行われていません。そのため、これらの発表に関してはPanther Lakeの発売時期が2026年第一四半期以降とされているため、遅くても2026年1月初めに開催されるCES 2026で明らかにされると考えられています。ここでCore Ultra Xの存在や、実際の性能などベンチマーク結果が登場すると見られており、今後注目を集めることになりそうです。
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