AMDの次世代CPUアーキテクチャであるZen 6について、GCCコンパイラへの最新パッチから命令セットアーキテクチャ(ISA)の詳細が明らかになりました。このパッチではZen 6のサポートが追加されており、AI処理や機械学習ワークロードに重要な新しい命令セットへの対応が含まれています。
AMD Zen 6の命令セットがコンパイラ経由で判明
GCCコンパイラに「Add AMD znver6 processor support」というタイトルのパッチが適用され、AMDの次世代Zen 6コアアーキテクチャのサポートが追加されました。このパッチでは、Zen 6コアの初期ISA(命令セットアーキテクチャ)が明らかにされており、以下の命令セットへの対応が含まれています。
- AVX512_FP16
- AVX_NE_CONVERT
- AVX_IFMA
- AVX_VNNI_INT8
これらの命令セットは、特にAI処理や機械学習ワークロード、科学技術計算などで性能向上に寄与すると考えられており、IntelのCPUが既に対応している命令セットと同等の機能を提供することで、ソフトウェアの互換性や最適化の面でも有利になると見られています。
AVX512 FP16で半精度浮動小数点演算が高速化
AMDは既存のZenアーキテクチャでAVX512のサポートを提供していますが、Zen 6ではAVX-512 FP16命令セットが新たに追加されます。この命令セットは、16ビット浮動小数点演算(半精度)をAVX512の512ビット幅レジスタで並列処理できるようにするもので、1つの命令で最大32個の16ビット浮動小数点値を同時に処理することが可能になります。
AVX512 FP16は、AI推論処理やディープラーニングのトレーニング、画像処理、グラフィックスレンダリングなど、精度よりもスループットが重視されるワークロードで特に有効です。
半精度演算は単精度(FP32)や倍精度(FP64)と比較してメモリ帯域幅の消費が少なく、キャッシュ効率も向上するため、大規模なデータセットを扱う科学技術計算やAIワークロードにおいて大幅な性能向上が期待されます。
VNNI INT8でAI推論性能が向上
Zen 6では新たにVNNI INT8命令セットがサポートされます。VNNI(Vector Neural Network Instructions)は、8ビット整数演算を高速化するための命令セットで、AI推論処理において重要な役割を果たします。
AI推論では、学習済みモデルを使って実際のデータを処理する際に、多くの積和演算(Multiply-Accumulate)が必要になります。VNNI INT8は、これらの演算を効率的に実行するための命令セットで、4つの8ビット整数の乗算と加算を1つの命令で実行できます。
IntelはIce Lake世代からVNNI命令セットを導入しており、Xeonプロセッサだけでなくコンシューマー向けCoreプロセッサにも搭載されています。AMDがZen 6でVNNI INT8をサポートすることで、AI推論ワークロードにおいてIntelとの性能差を縮め、データセンター市場やエッジAI市場での競争力を高めることができると見られています。
特に、クラウドサービスプロバイダーや企業向けサーバーでは、AI推論処理の需要が急速に拡大しており、VNNI INT8のサポートはZen 6ベースのEPYCプロセッサの競争力に直結する要素と言えます。
コンシューマー向けもすべての命令セットが使える見通し
これらの命令セットは主にAI向けを焦点に当てたもので、ゲーミングなどではあまり役立つものにはなっていません。ただ、動画エンコードやレンダリングなどクリエイティブ用途でもソフトウェア側が活用できれば処理速度の向上が期待される機能であるため、Zen 6と共にこれらの命令セットに対応するCPUが増えれば新しい命令セットを活用したソフトウェアが登場することに期待されます。
なお、Intelでは命令セットに関してサーバー向けとコンシューマー向けで差が設けられていますが、AMDは過去に発売した製品でも基本的にサーバー向けEPYCとデスクトップ向けRyzenでは命令セットに差が設けられていません。そのため、Zen 6でもEPYCとRyzen共にすべての命令セットが利用できると予想されています。
なお、AMDのZen 6は2026年後半以降に発売される見通しです。



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