TSMCは半導体の先進プロセスにおいて独占的な地位を占めていますが、最近ではAI需要の急騰により製造キャパシティの逼迫も見られています。そのため、TSMCは2026年1月以降、3nm以下の先進プロセスのウェハーあたり価格を引き上げるとともに、今後数年間にわたり値上げを計画していることを明らかにしました。
AI需要拡大で3nm以下の先進プロセスが供給不足に
TSMCの先進プロセスはサムスンなども追いついてきているものの、依然として性能や歩留まりなど多くの観点で優位性があります。AI向け製品ではAMDやNVIDIA、コンシューマー向けではAppleやQualcomm、Intelなどが3nmや2nmなどの製造契約を結んでいます。また、最近ではAIへの投資に関連してBroadcomなども3nm以下プロセスへの契約を結ぶなど、供給逼迫が発生しています。
実際に、アナリストによるとTSMCは2026年第1四半期も従来の閑散期にもかかわらず好調な業績を維持し、前四半期と同等かやや上回る業績になる可能性も出ているとのことです。このような好調な受注を背景に、TSMCは先進プロセスを中心にさらなる値上げを予定しており、その値上げ幅は3〜10%程度に達するようです。
値上げ幅は最大10%。2026年から2029年まで値上がりを計画
TSMCは好調な受注に加え、研究開発費やインフレなどの影響による生産コスト上昇を踏まえて、顧客の調達規模や条件に応じて約3〜10%程度の値上げを計画しているとのことです。この値上げ幅は2025年に見られた値上げを超える水準になるとのことで、TSMC 3nm以下の先進プロセスの価格はさらに高騰することになります。
| 製造プロセス | 製品 (一例) |
|---|---|
| TSMC 3nm | Apple M4/M5 Apple A18 /A18 Pro/A19 A19 Pro Intel Arrow Lake / Lunar Lake Intel Panther Lake (iGPU) AMD Zen 6 (ノートPC向け) (予定) AMD RDNA 5 GPU (予定) ソニー PS6用APU (予定) |
| TSMC 2nm | Intel Nova Lake (予定) AMD Zen 6 (デスクトップ・サーバー) (予定) |
なお、値上げ対象となるTSMC 3nm以下のプロセスを用いたコンシューマー向け製品としては、現時点ではApple製チップセットやIntelの一部CPU製品が挙げられます。また、将来的に登場する製品ではAMDのZen 6系CPUやIntel Nova Lakeが2nmを用いると言われていますが、これらの製品では登場時に現行モデルより値上げが実施される可能性があります。
2029年まで3nm以下のプロセスは毎年値上げへ
TSMCは需要を見極めるため顧客との協議を進めているほか、今後も値上げを計画しているとのことで、現時点では2029年まで4年連続で毎年値上げを実施する方針を顧客に対して伝えているとのことです。
なお、この値上げの幅は一桁%になると見られていますが、TSMC 3nmはウェハーあたり2万ドル(約280万〜300万円)程度と言われており、2nmではさらに3万ドル(約450万円)以上に上昇すると言われています。そのため、数%の値上げでもコストへの影響は非常に大きくなります。このような先進プロセスを搭載するCPUやGPUなどの半導体製品は、コンシューマー向けであっても新モデル登場のたびに値上げが行われるなど、価格高騰が続いていくものと考えられます。
TSMC 3nmや2nmはAIブームによりキャパシティが逼迫していることは明らかにされており、TSMCもアメリカや熊本に工場を建設するなど設備投資がかさむ状態になっています。また、高くても顧客が離れないという自信があるため、今後も値上げを続けるなど強気な姿勢で価格設定を行っていると考えられます。
この影響はコンシューマー向け製品の価格やスペックにも及ぶため、今後登場する製品はより高値での販売や、性能向上幅が従来より縮小するなど、消費者にとって厳しい状況が続く可能性があります。TSMCの先進プロセスに競合できるファウンドリーとして、サムスンやIntel、Rapidusなどの躍進が期待されます。



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