H.265(HEVC)と呼ばれる動画コーデックは、高い圧縮率からNetflixの4K動画など一部ストリーミングサービスでの利用やカメラを含む多くのハードウェアで使われています。最近のCPUではIntel、AMD製問わずハードウェアデコードにも対応しています。
しかし、このHEVCは使用に少額のライセンス料が必要となることから、HPとDellはコスト削減を狙ってこの機能を工場出荷状態では完全無効化する措置を取っていることが明らかになりました。
HPとDellがビジネス向けPCでHEVCを無効化
IntelのCore iシリーズは第6世代(Skylake)以降、AMDは2015年以降のラップトップ向けAPUにおいて、HEVCのハードウェアエンコード・デコード機能を標準で搭載しています。しかし、HPとDellはビジネス向けの一部機種においてこの機能を意図的に無効化しています。
HPが無効化を明示している機種は、ProBook 460 G11、ProBook 465 G11、EliteBook 665 G11などで、製品データシートに「Hardware acceleration for CODEC H.265/HEVC (High Efficiency Video Coding) is disabled on this platform」との記載があります。
Dellも同様の措置を取っているものの、製品ページやオンラインマニュアルには明示されておらず、サポートページにて限られた構成でのみHEVCに対応すると説明しています。Dell 16 Plus 2-in-1などが対象機種に含まれるとのことです。
PC買い替えで機能がダウングレードへ
この機能無効化により、旧型機では問題なく再生できていたHEVC動画が、最新ノートPCではブラウザ上での動画やiPhoneなどで記録された動画が再生できないという逆転現象が発生しています。
実際に、Reddit上で企業のシステム管理者などが集まるサブレディットでは興味深い報告が寄せられています。「旧型ハードウェアを使用する人は問題なかったのに、新型機を使う人がMicrosoft Media FoundationからHEVCコーデックを完全に削除する必要があった」という事例です。あるいは、ブラウザのハードウェアアクセラレーションを無効化する必要があったとも報告されています。ビジネス用途でも業務で動画を再生する際に不都合が生じるなど、混乱が発生しているようです。
なお、HPやDellが実施したハードウェアアクセラレーションの無効化により、ウェブ上のコンテンツは一部が視聴できなくなります。また、iPhoneやAndroidなど最近のスマートフォンで撮影された動画も、HEVC以外の形式に変換して取り込まないと、HEVCが無効化されたPCでは正常に再生できなくなります。
HEVC無効化の理由はライセンス費用回避のため?
HPとDellの広報担当者は無効化の理由について明言を避けていますが、業界関係者の間ではHEVCのライセンス費用上昇が背景にあると見られています。
HEVCのライセンスを管理するAccess Advanceは2025年1月から料金を引き上げることを発表しており、VIA Licensing Allianceの資料によると、米国での10万台超のライセンス料は1台あたり0.20ドルから0.24ドルに上昇するとのことです。2025年第3四半期において、HPはノートPCとデスクトップを合わせて1500万台、Dellは1016万台を出荷しており、両社合わせて毎年数億円のライセンス費用が発生することになります。
このHEVC無効化に対して、両社はユーザーに対し、HEVC再生が必要な場合はMicrosoft Storeから拡張機能を購入するよう案内しています。Microsoft Storeにある「HEVCビデオ拡張機能」は120円で購入できます。また、プレミアムシステムや4Kディスプレイ搭載機種、専用グラフィックスカード搭載機種などではHEVC機能が有効になっているとのことです。
H.265(HEVC)はライセンス料の問題はあるものの、iPhoneやAndroidなどのデバイスに加え、一部のストリーミングサービスで採用されているコーデックです。この機能が使えないとなると、たとえビジネス用途のノートPCに限定されていたとしても混乱が生じることは必至といえます。
また、1台あたりたった約40円のライセンス料を削減するためにユーザーからの不満を大きく高めるのであれば、素直に製品価格に転嫁するか、せめてオプション化するなどした方が、ユーザー満足度や信頼性という観点では優れています。このHEVCを無効化するという判断が今後も続けられるのか気になるところです。



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