一番安全な車はアメリカ仕様。なぜか説明します

最近、モデルチェンジされる度に大型化していく車ですが、ご存じの方も多いと思いますが、これはほぼすべての車が世界で売れることを目的にしているため、発生している事です。 このように世界中で売る車の事を「世界戦略車」と呼びます。

これは、車両開発には膨大なコスト(約300から500億円程度)と時間(最低2.5年)がかかるため、何台も同時開発ができないため取られる戦法です。

(ちなみにこの開発コストは年を追うごとにどんどん上がっていっていますがこの事については別の記事で書こうと思います)

そんな世界戦略車ですが、地域の特性に合わせて仕様が異なることが多いです。大きくわけるとアメリカ仕様、欧州・日本仕様、中国仕様、その他の国仕様で分かれていますがこの中で実は、

アメリカ仕様が一番安全な車に出来上がっています。

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各国での新車アセスメント評価(★の数で評価)

アメリカは、車が販売される地域としては日本、欧州に並ぶ「先進国マーケット」と言われる市場です。

そんな先進国マーケットでは交通事故による死傷者低減は政府にとって大きな目標となっています。そのような目標を達成するには、メーカーがより安全な車の開発をし、ユーザーがそれを選んでもらう必要があることから、政府や消費者団体主導でメーカーとは独立した衝突試験を実施する組織が発足されています。

それが新車アセスメントプログラム(通称:NCAP)というもので政府機関である米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)主導で1979年に始まりました。

そこから、日本では国交省主導でJNCAPが1995年に発足、欧州では消費者団体主導でEuro-NCAPが1997年に発足されました。

これらの組織発足後、メーカーから発売される車の衝突安全性能が★の数で評価されるという非常に分かりやすい形で公開されるようになりました。そのため各メーカーはNCAPで良い成績を取れるように安全装備を充実させ、ユーザーに対する商品訴求材料として活用し始めます。これは政府の思惑通り、メーカーはより安全な車を開発し、ユーザーはより安全な車を簡単に選べるようになりました。

そんな各国に存在するNCAPですが、アメリカではNCAPとは別に独立して衝突試験を実施、公表する組織が存在します。

それが米国道路安全保険協会(IIHS)です。

アメリカにはアセスメントが2つ。米国道路安全保険協会(通称:IIHS)

国道路安全保険協会(IIHS)は名前から見てわかる通り、保険業界が設立した非営利団体で、資金は各保険会社の助成金によって成り立っています。保険業界としてもより安全な車が広がれば保険金払いが減ることによる利益に繋がる事からこのような組織が発足したと考えられます。

このIIHSですが、保険業界が持つ事故統計をベースに試験法が考え出されており、各国のNCAPより現実世界での事故形態に近い結果が出ていると考えられており、その結果は他のアセスメントと同様Youtubeやウェブで公開されています。

そんなIIHSが2012年から独自にスモールオーバーラップ試験というものを開始します。

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この試験は車両の25%を壁に衝突させ、乗員保護性能を測る試験で、通常のオフセットやフルラップに比べてダメージが車体の一か所に集中する特徴があります。
試験が導入された背景としては、IIHSの研究で正面衝突での死亡事故の内約25%がスモールオーバーラップ状態での事故だったそうです。たった25%と思うかもしれませんが、何も対策がなされていない現状から対策をすれば非常に多くの命を救えると考えられます。

この試験ですが、現実世界ではどういう状況でスモールオーバーラップ衝突が発生するかというと、最も多いと思われる例は居眠り運転やスピードの出しすぎで曲がり切れず、側壁や防護柵、電柱などの突起物に衝突する状況と考えられます。(IIHSのスモールオーバーラップ試験では車両を模したアルミ製ハニカムバリアーではなく鉄製の壁を用意している事から壁など構造物への衝突を想定しているようです)

そんなスモールオーバーラップ試験ですが、導入当時はトヨタ、日産、VWなど大衆車メーカーはもちろんのこと、ベンツやBMWなど高級車メーカーのほとんどが最も低いレーティングを叩き出してしまいニュースで取り上げられました。

現実でも発生しやすく死亡率も高めなスモールオーバーラップ試験ですがこれがアメリカで発売されている車しか対応していない事が多いです。

スモールオーバーラップ試験と良くある衝突試験は何が違うのか?

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スモールオーバーラップ衝突時の動き

スモールオーバーラップ試験は通常の衝突試験に比べて衝突させる範囲が非常に小さいです。通常の衝突試験では約50%のところをこの試験では25%だけになります。

このように試験を実施すると、衝突側が壁にめり込み止まる一方で非衝突側は慣性の法則でそのまま前に進もうとします。さらに、車体も衝突側が縮む事で非衝突側との間で歪みが発生します。

そのため車の構造によっては座席がねじれにより衝突側に少し回転し正面エアバッグが無い方向へ体が逃げやすくなります。これに相まって回転することで横方向への衝撃が加わりますので体は正面ではなく、エアバッグとカーテンエアバッグの間にあるAピラー(一番前にある柱)目がけて動いてしまいます。この体の動きのが通常の試験とは大きく異なる点にもなります。

実際に以下のYoutube動画をご覧ください。

この動画27秒で室内のスローモーションが映し出されますが、衝突時にダミーがエアバッグの正面ではなく、右に移動しながら衝突しているのが分かります。これは、衝突時に横Gと車体の歪み(座席が少し傾いています)加わることで起きているのですが、ダミーの挙動を見ていると衝突して体が前に移動し始めてから横Gが入り横移動を開始するのです。 こうなると、体は前かがみになりエアバッグには当たるものの、横に移動することから正面エアバッグから横へ滑って行ってしまいます。

トヨタの現行RAV4の場合はスモールオーバーラップに対応した作りとなっているためダミーが正面エアバッグの右側に当たったものの受け止められています。万が一もう少し右にずれてもカーテンエアバッグに当たるため内装への強打は防げるはずです。

逆に、正面エアバッグやカーテンエアバッグがスモールオーバーラップ衝突に対応した設計でないと乗員は内装やドアの枠に頭をぶつける可能性があります。

以下が実際に、エアバッグの隙間に頭を打ってしまう動画です。

2014年と古いので今では対策はされていますが日産のX-Trail(アメリカではRogueと言います)での試験です。

動画では正面エアバッグの大きさとサイドエアバッグの膨らみが足りずダミーが2つの隙間に入ってしまっています。こうなると乗員は固い内装に頭をぶつけるため非常に危険です。

ここまでは主に助手席側が焦点に当たっていましたが、運転席の場合は助手席よりさらにカーテンエアバッグが重要になります。

冒頭でスモールオーバーラップ衝突をすると車が回転し歪むと書きましたが、こうなるとハンドルを固定する、インパネ下にある突っ張り棒のような柱があるのですが、これも歪む時があります。

そうなるとハンドルは非衝突側へ逃げてしまい、ハンドル内蔵エアバッグが運転手を覆いきれない状況が発生します。ハンドルが逃げないように対策をするか、カーテンエアバッグで覆う面積を増やすなどの対策が無ければそのままAピラーやドア枠に頭をぶつける危険度が増します。

(トヨタC-HR これは対策がされているためハンドルは逃げていません。ダミーはカーテンエアバッグに当たりながら正面エアバッグに挟まり頭の保護に成功しています)

(トヨタのプリウスC(日本名:アクア)は対策がされていないためハンドルが逃げてしまいダミーがそのままカーテンエアバッグが覆われていない前端隙間に強打しています)

このように、スモールオーバーラップ衝突時には、カーテンエアバッグが非常に大きな役割を担っていることが分かったと思います。特に頭部に関してはエアバッグが適切に設計されていなければ内装類への強打など致命傷となりえます。

ただ、このカーテンエアバッグですがアメリカだけ充実しており、その他地域は若干の手抜き仕様になっています。これが冒頭のアメリカ仕様が一番安全な車に出来上がっているという結論繋がってきます。

命は平等。だけど日本・EUだけ手抜き仕様

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トヨタRAV4衝突試験比較(フロントの赤丸に注目してください)後ろについてはまた今度紹介します・・・

画像は、アメリカ仕様、EU仕様、日本仕様の3つの衝突試験を比べたものです。赤丸部分を見るとわかるのですが、カーテンエアバッグで覆われているエリアがアメリカ仕様だけ異なります(アメリカ仕様のみ助手席側撮影ですが、エアバッグの展開エリアは運転席・助手席で違いはありません)

この違いがまさにアメリカ仕様しかスモールオーバーラップ試験に対応していない証です。

このようにスモールオーバーラップ衝突対応車と非対応車では見える範囲ではカーテンエアバッグの違いしかありませんが、ここまでの説明でスモールオーバーラップ時にはカーテンエアバッグが非常に重要な役割を担っている事がお分かりだと思います。

日本でのスモールオーバーラップ死亡率は?

このスモールオーバーラップ事故が日本でどのぐらい起きている可能性があるのか、死亡率がどのぐらい出ているのかざっくりと調べました。

個人での調査のためIIHSのように事故の詳細分析できずはずもありませんので、交通事故総合分析センターで公開されているデータを元に通常の衝突試験で想定している車両相互での正面衝突と、IIHSが想定しているスモールオーバーラップが最も起きやすい事故形態である防護壁、分離帯、電柱への衝突で全事故件数からの死亡率を割り出してみました。

その結果、令和元年度に発生した事故では

  • 車両同士の正面衝突での死亡率は3.9%(全件8037、死亡316)
  • 車両単独で防護柵、分離帯、電柱への衝突での死亡率は13%(全件2323、死亡310)

事故件数が3.5倍近く多い正面衝突事故より3.3倍も高い死亡率となったのです。

もちろんこの死亡率の計算は詳細なデータを元に計算されていないため、正確性には欠けていますが、それでも無視できる数字ではないとも考えられます。

まとめ

アメリカではスモールオーバーラップ試験が導入されており、現実世界でも死亡者数低減には大きく寄与する可能性はありそうです。今年でこの試験が導入されてから8年で、車のライフサイクルからすると大多数のユーザーはより新しい車に乗り換えていると考えられるので実際の統計でどの程度効果が表れるのか要注目です。

一方で、日本・EUではスモールオーバーラップ試験は導入されておらず各メーカーは日本・EUで発売する車にはスモールオーバーラップ事故に対応した作りにしていない可能性が非常に高いです。

つまり、安全な車を買いたいならアメリカ仕様の車を買う事ですが・・・

当然ながら日本でこのアメリカ仕様の車は買えません。ハンドルの位置も逆になるので不便極まりないというのもありますし

*そもそも北米仕様はUN協定規則ではなくFMVSSなので・・・(マニアックすぎるのでまた機会があれば)

ただ、希望が無いわけではありません。日本のJNCAPでもこのスモールオーバーラップ試験の導入は検討されていますが、残念ながら早くて2024年頃となる予定です。

そのため今、我々日本人のユーザーができることと言えば、事故が起きないように安全運転を心がける事と、このような車の安全技術に対してより多くの知識を持つ事だと思います。

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