新型コロナウイルスの影響によって自動車産業も大きな影響を受けており、新車の販売台数は前年比50%以上の低下した事が確認されています。
これにより欧州では約60万台の在庫が確認されています。
実はこの車、半年以内に売れなくなる可能性があるのです。
欧州は2021年から規制基準が変わる。Euro6dへ
欧州では排ガス規制のレベルに名前が付けられており、Euro6d-TempやEuro6dなどと呼ばれています。
規制レベルは低い順に示すと以下のようになります。
Euro6d-Temp < Euro6d ISC FCM (まとめてEuro6dと言う)
2021年からはEuro6dと言われる新たな排ガス規制に対応する車以外は販売が不可能になる予定になっています。つまりEuro6d-Temp車は売れません。
排ガスがより綺麗になるので問題が無さそうに聞こえますが、コロナ禍で新車販売が滞っている事からある大問題が発生してしまうのです。
在庫車60万台がEuro6d非対応。
7/1付けでACEA(欧州の自動車関連の業界団体)が欧州委員会に向けてあるレターを出しました。
要約すると以下のようになります。
- Euro6dが21年以降必須になるのは業界として周知の事実で、準備をしてきた
- ACEAとしてはEuro6d規制は環境のみならず政治的にも重要なのは理解している
- しかし、コロナの影響で自動車販売は壊滅的な打撃を受けた
- 欧州では21年から販売出来ないEuro6d非対応車の在庫が約60万台残っている
- Euro6dに向けた型式証明も滞っており約2000型式がまだ認可を受けていない
- このままでは産業と雇用に大きな影響を与えるので6ヵ月延期してほしい
欧州で2021年から売れなくなる車が未だに約60万台残っているのです。
なぜなら、今年の欧州での新車販売は3月、4月、5月の3か月平均では前年比を約60%下回っている状況になります。
台数で言うと、約200万台分の需要が蒸発したのです。
台数の減少度合いは経済活動の再開に合わせて徐々に回復しているものの、コロナの感染再拡大などが一部地域で発生しているため前年同月比が同等又は上回るのは年内は困難と思われます。
そのため、在庫車を捌き切るには新車生産を長期間止めるなど雇用や企業経営に大きな打撃を与えかねない方法しかなく、現実的では無い状況になっています。
各国官庁が閉鎖又は業務縮小で新車も出せない
ACEAが出した声明文の中でもう一つ重大な事柄か書いてあります。
それが、『Euro6dに向けた型式証明も滞っており約2100の排ガス型式がまだ認可を受けていない』と言う点です。
車が市場で販売するためには、安全、環境それぞれの規制に合致している証明を得る必要があります。そのために必要なのが各法規の型式証明です。
これらの型式証明はEU各国の国交省的な官庁が発行しています。しかし、コロナの影響は民間と同じく官庁にも影響しており、時短勤務や在宅勤務で通常通りの証明発行が出来なくなっているのです。
ACEAの声明によるとこれにより、約2100の排ガス型式認可が滞っているとの事です。
排ガス型式と言うと、1型式につき1つの車種を想像しそうですが、タイヤの大きさやエンジン排気量違いなどある程度まとめたグループにつき1つずつ型式が発行されます。
そのため、この約2100と言う数字は、2100車種分の認可を取れていないというわけではありません。
ただし、ざっくりと1モデルに付き18の排ガス型式を持っていると仮定しても約117車種が発売できない状態になっているので影響は甚大ではあります。
排ガス規制が6ヵ月延期されてもメーカーへの試練は続く
ACEAの要望はただ一つ、『Euro6d規制の施行を6ヵ月延期してほしい』という事です。
でも仮に受け入れられても、次に待ち受けているのは欧州で導入されている企業平均燃費規制未達による罰金です。
各メーカーは2021年から本格的に導入されるCO2規制をクリアするため、そのタイミングで新型車やマイナーチェンジ車を数多く出し、全体的に低燃費な車が売れるように商品ラインアップを計画をしています。
しかし、コロナで2020年は車の販売が見込めないため、在庫として残っている『燃費が比較的悪い、古い車』は21年に持ち越されることになります。
そうなれば、例え6ヵ月の猶予が与えられてもメーカーとしては平均燃費値が悪化する原因となってしまいます。
悪化分はEVやハイブリッドを売れば良いと考えられそうですが、コロナを発端とした低調な経済は来年も続くと言われています。消費者の購買意欲もリスクに備える傾向が強くなっているはずです。
そうなれば多くの人は乗り出し価格が高いEVやハイブリッドを選ばず価格の安いガソリン車を選ぶようになります。
そうなれば、在庫をさばけたとしても、次は在庫以上の罰金を支払う可能性が高いです。
欧州での自動車販売は視界不良。撤退や縮小が続出する?
自動車産業は日本でも非常に裾野の広い業種でありますが、それは欧州でも同じです。しかし、2015年にVWが排ガス試験にて不正をしてしまいました。
その結果、環境意識がもともと高かった欧州では自動車の排ガス規制は強化の一途を辿っていました。自動車メーカー側は行き過ぎた規制には反論したい気持ちもあったが、VWの一件もありACEAは発言力があまり無い状態に陥っています。
そんな中で、自動車産業はコロナで壊滅的打撃を受けてしまいましたが、ACEAが欧州委員会に要望したのはたまった在庫を処分するためにEuro6d施行の6ヵ月の延期だけです。消費者の動向に最も左右され、企業経営への影響が大きい燃費規制については一切言及できなかったのです。
恐らく欧州に進出する自動車メーカーの多くは、消費者の購買意欲低下により、価格の高い低燃費車は売れず、廉価で普通の車が売れることが予想されます。
そうなれば、CO2規制の罰金に耐えかねて、ラインアップの大幅縮小や最悪の場合、欧州市場から撤退するメーカーも現れるかもしれません。
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